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なぜ子育てと仕事の両立が注目されるのか?!
~経営戦略としてのワーク・ライフ・バランス~

2012年12月27日

株式会社ワーク・ライフバランス 代表取締役 小室 淑恵 氏

今回のコラムは、第二子を出産されたばかりの、株式会社ワーク・ライフバランス代表取締役社長 小室淑恵さんに執筆していただきました。

働く場における両立支援制度が整備され、仕事と子育ての両立を取り巻く環境は改善されてきました。しかし、第一子出産後も就業を継続している女性は38.0%に留まっている、男性の約3割が育児休業取得を考えているにもかかわらず実際の取得率には3%にも満たない等、いまだ課題もあります。※

仕事と子育てを両立するために企業・社員がそれぞれ何をすべきか、改めて考えてみませんか。
※ 内閣府「平成24年度版 子ども・子育て白書」より


私は、2006年に株式会社ワーク・ライフバランスを創業しましたが、実は、長男を出産して3週間後の起業でした。そして2012年11月20日に第二子を出産しまして、産後3週間でこの原稿を執筆しています。また、私を含め、社員の4割が子育て中で時間制約がありますが、弊社は全員残業禁止で、18時には独身社員も含めて業務を終えるので、時間制約があることがキャリアのハンデになることはありません。講演やコンサルティングを行う中で「子育てと仕事の両立は大変ではありませんか?」という質問や、企業の役員の方々との面談では「厳しいビジネス環境の中で、時間に制約がある育児中の社員をマネージメントするのは難しい。余裕のある企業が福利厚生でやることでしょう」といった声をいただくことも多いのですが、逆なのです。弊社は短時間で生産性高く働く集団になったことで7年間増収増益で来ました。また女性自身から「育児しながら働くのは自分のエゴなのでは」という声もまだ耳にすることはありますが、弊社では、育児する女性達の声をもとに、育児休業者の職場復帰を支援するプログラムarmo(アルモ)が生まれ、400社以上に導入いただいている、という形で、むしろビジネスチャンスを拡大しています。 皆さんの企業も、今後はたして、時間に制約がない社員だけでこの社会で勝っていくことができるのでしょうか?また育児と仕事の両立は女性のエゴなのでしょうか?

 

イラスト

なぜいま子育てと仕事の両立を考えるのか?

現在の日本の背景から確認しましょう。日本の現状として、最も頭の痛い問題が少子高齢化です。少子高齢化により、労働力人口が減少し、“働いて年金を納める側”の人の数が減り、“年金を受けとる側”の人の数が増えているのです。そのため、出生率の向上を目指しているという背景があります。しかし、出生率の向上だけを目指していても、今の日本には逆効果なのです。なぜかというと、一人の子供を出産しても、その子供が年金を払う年齢に達するまで20年かかります。その20年の間に今の日本の現状では約7割の女性が出産を機に退職をせざるを得ない状況だからです。1997年以降、共働き家庭が専業主婦家庭を上回り、出産まで働いて年金を払ってくれていた存在である女性が出産によって退職することは、年金財源の観点からも一時的にマイナスであることがわかります。つまり、現在の日本の問題を解決するためには、出生率の向上だけでなく、女性の継続就業も必要だということがおわかりいただけたかと思います。

 

共働き世帯の推移

共働き世帯の推移

出典:内閣府「男女共同参画白書(平成24年度版)

 

では、企業にとって、子育てと仕事を両立する社員が継続就業するメリットはあるのでしょうか?

これまで企業を支えてきた経験・知識の豊富な団塊世代が2007年から一斉に定年退職を迎え労働力人口が激減することを「2007年問題」といいますが、この問題により、人はいなくなって仕事が残ってしまうという状態が企業におきています。さらに、この先5年も経たないうちに団塊世代が一斉に70代に突入します。団塊世代を介護をする団塊ジュニア(1971年~1974年生まれ)を中心とする世代です。現在、介護施設に入れずに待機している高齢者の方は増えて続けています。

 

全国介護施設の入所待機高齢者数

そうなると団塊世代ジュニアの方々が介護と仕事を両立しながら、ヘルパーやデイサービスの助けを借りながら家庭内で介護をしていく割合が増えていくことが容易に想像できるでしょう。すでに、育児で休業する女性よりも、介護で休業する男性の数が上回っている企業もあるほどです。現在のような長時間労働の働き方のままでは、到底介護と仕事の両立をすることはできない。そこで、限られた時間で効率良く仕事をするため、「育児と仕事を両立している女性」のやりかたを手本として捉えている企業も出始めています。また、市場を見ても、消費者の中に「子育てと仕事を両立する人」「介護と仕事を両立する人」が増えています。そういった消費者が欲しがる商品やサービスを、先手を打って出していかなくては、市場で勝ち続けることができません。多様な人財、多様な働き方を認め、その発想から得るアイデアを活かしていくことこそが市場競争に勝つ方法だと言えます。

今こそ求められる働き方の見直し

では、企業は女性の継続就業への支援制度などの整備だけをすればよいのでしょうか? また、女性だけが子育てと仕事の両立に取り組む必要があるのか?というとそうではありません。かつて、多くの企業が女性に対する両立支援制度を一斉に整え、「制度は十分に整っている」という企業が増えました。しかしそれでも出生率は向上しません。夫の働き方は変わらず、長時間労働なので、深夜まで一人で育児をするような孤独な育児体験をし、一人目の出産で懲りてしまうためです。

6歳未満児をもつ夫の家事・育児時間

出典:内閣府「子供・子育て白書」(平成23年度版)

 

そんな一人目のトラウマ体験が二人目の出産を躊躇させる原因となっているのです。厚生労働省の調査結果でも、夫の家事育児参画と第二子以降の出生割合に相関関係があることを発表しています。(参考:厚生労働省「第6回21世紀成年者縦断調査」(2008年))

つまり、男性の働き方の変革こそが、日本の少子化対策にはもっとも有効なソリューションだということがわかります。女性のための福利厚生制度の充実よりも、男性の労働時間改革が必要です。企業において、労働時間を改革することには、もう一つ大きな効果があります。最近は、制度が充実している企業では「育児休業を取得した社員は、ほぼ全員きちんと復帰できています」とおっしゃいます。ところが、復帰した社員は、モチベーションが低く、復帰後にはあまり活躍しないという声、女性の意識の問題が大きいと指摘する声も多いのです。しかし、このモチベーションダウンの原因は決して女性が制度に甘えていて意識が働く低いというわけではありません。頑張って復帰しても、その職場が長時間労働の環境だと、当然のように定時後に会議が設定されていて、残業が出来ない立場の社員は重要な意思決定には携われないという中で、長時間労働できない社員は評価されない、活躍できないという「時間の制約」が仕事の足かせとなってしまうのです。また、短時間勤務制度を使うと、無条件に評価が下げられてしまいキャリアが横ばいになってしまうという企業も少なくないので、そのことでモチベーションの低下が起こってしまうのです。育児と仕事を両立している社員が時間に制約があってもモチベーション高く働くためには、社員一人ひとりが働き方を見直し、限られた時間の中で成果が出せるための組織作りを行い、マネジメント層は時間当たり生産性の高い従業員を評価することが必要です。

働き方の見直しが企業と日本を救う

中には、「自分は独身で関係がない。今は夜中まで仕事をしたい」と思う方もいるでしょう。しかし今後、育児・介護と仕事を両立する従業員の割合が増え、「時間に制約のある従業員」のほうが多くなるのです。今、職場全体で働き方を見直さなくては、自分自身には事情がなく残業できるという社員にすべての仕事がふってくることになり、長時間労働によるメンタル疾患や体調不良、過労死などを起こすことも十分に考えられるでしょう。私達がコンサルティングさせていただいた企業では、働き方を見なおしたことで、残業が3割減って売上は上がるというような変化が出ました。

独身の男性も顔色がよくなり、チーム内のコミュニケーションがぐっと増えたのが印象的でした。そういったことが出来る業界は限られていると思うかもしれませんが、今まで建設系や、IT系などといった、長時間労働は仕方ないと言われていた企業でも大きな変化が出ました。 独身の人にとっても、働き方を見直すことは将来的に自分のためにもなるのです。明日は我が身と捉え、子育てや介護によって時間に制約がある同僚や上司を支えるチーム作りに自らが貢献していきましょう。育児・介護と仕事の両立をしている方は、時間に制約があっても、その限られた時間の中で最大限の成果を出すために工夫をし、さらにその工夫をチームに共有し、自身がもっているノウハウを積極的に後輩に引き継ぐことで育成をしていきましょう。マネジメントや経営層の方は、時間に頼った働き方への評価を見直し、時間あたり生産性を向上させることで勝ち続けられる組織を今から作っていきましょう。

職場全体で働き方を見直すことが、子育てと仕事を両立している社員だけでなく、チームにとっても、企業にとっても、日本にとっても、今こそ求められているのです。

<プロフィール>
小室 淑恵 氏
(株式会社ワーク・ライフバランス代表取締役社長)

06年、(株)ワーク・ライフバランスを設立。
自社で「ワーク・ライフバランス組織診断」や「育児休業者職場復帰支援プログラムarmo(アルモ)」、「介護と仕事の両立ナビ」、「朝メール.com」などを開発。
09年よりワーク・ライフバランスコンサルタント養成講座などを主催、多種多様な価値観が受け入れられる社会を目指して邁進中。二児の母の顔をもつ。内閣府「仕事と生活の調和連携推進・評価部会」委員など複数の公務を兼任。
著書に『6時に帰るチーム術』(日本能率協会マネジメントセンター)は累計売上6万部を突破。新著『夢を叶える28日間ToDoリスト』(講談社)。

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